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誤解を恐れずに言えば、自分は望まれない子だった
家族にではないよ
家族はそれはそれは愛してくれた
こんな駄目な僕をね
“出来の悪い子程可愛い”とは本当だな
いや、それとも、もっと出来のいい可愛い気の有る子だったら、もっと愛してくれたのかな
全く遺伝子の混じっていない様に笑ってしまう程鐚一似通っていない孫を、全く遺伝子の混じっていない様に笑ってしまう程鐚一似通っていない息子を許して欲しい
毎日、毎時、毎分、毎秒、心の中で血の涙を流し、血を吐きつつ嗚咽し、謝罪しながら生きている
祖父の権勢がそれはそれは想像を絶する物であったればこそ、人間の隠れた裏の心と云う物は醜い
祖父や父に表立って逆らえない苛立ちを吐き出せない分を所謂“忌み子”と内心に思っていた人間も多いと聞いた、後に
そう、父の姉と云う、血の繋がった叔母を始めとする身内にさえも
結局は身内にこそ、か
僕もだが、特に母が何故だかその叔母に憎まれていた
それ故に、有りもせぬ事を吹聴され数の力で理不尽に貶められ屈辱的な時期を送った事も有り、息子として実に不本意且つ腹立たしく、また、止める事すら出来なかった不甲斐無さを今になっても済まなく思う
気付かずに甘受していた当時の僕の、幼かっただけでは済まされない傲慢さと鈍感
それ等はまた一つの“原罪”と呼べるのではないだろうか
業が深いのは人の事は言えないか
今の自分のまま、あの頃に戻れるなら、或る意味、帝王であった祖父にさえ一言、孫として忠告したい
そして、全盛と薄幸の狭間に揺れ動く青年歌舞伎役者であった父を殴り飛ばし、その手から酒瓶と薬を取り上げ
あの何も知らず無垢だからこそ罪深い幼児の首を捻り切って終わりにしたい
そして、現在
望まれていないのは、それは大人になった今もあまり変わっていないのだろう
だが、多少
多少だけは違って来たのかな
割合として
例えば百万に対して一
それだけでも、僕が生きている事に対して喜んでくれる人が居るのだったら有難く思う様に感じる気持ちを最近は持てる人間になり始めた
遅かったけれど
だから、もうちょっとだけ
もうちょっとだけ、生きては行けるかも知れない気がする
頼りにならないなりに、先に逝って待っている色々な人の分の荷物も非力ながらも少しは肩に背負って
本当は分かっている
人間、死んだらその先はただの腐って行くだけの肉の塊
天国も地獄も死後の世界なんて有りゃしない
待っちゃくれていない
知っているよ
それでも
無神論者の僕でも何かを信じ(ようと思っ)ていないと、こんな糞っ垂れた世界なんてあまりにも寂し過ぎる
やる瀬無さ過ぎる
それから、僕が生きている事に歯噛みをしている九十九万九千九百九十九の人間に苦虫を噛み潰して頂く為に
それに対して一の喜んでくれる人間の為に
そう、僕が今、存在している事で不快に感じる人間が居るのであれば、その人間達にもっと不快に思わせる為に
また、逆に、幸福に思ってくれる人間が居るのであれば、その人間達にもっと幸福に思って貰う為に
もうしばらくは生きてみようと思う
蛇蝎の如く憎んでいる全ての者達に対しては徹底して汚物たろう
でも、愛してくれる全ての方達の前でだけは、良き人間で在りたいと、これでも心から願っているんだよ
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本来なら今日は米子から神戸への移動日の筈だった
一昨日の高梁総合文化会館での公演が延期になり今日、無事に開催されたので、お客さん達に御迷惑と御心配はお掛けしたけれども一息は吐けた
それでも、日が変更になって来られなかったお客さんには「楽しみにしていて下さったのに申し訳無い」と、僕如きからでも一言、詫びは言いたい
そう云った訳で、今日の予定は大幅変更と相なり、朝、バスで鳥取県米子から岡山県高梁まで約二時間移動して、二回公演
終了後に、JRで備中高梁駅から岡山駅での乗り換えを経て新神戸駅に入る行程
一日で鳥取県、岡山県、兵庫県と三県跨ぐ事になった
座り過ぎで流石に腰が辛い
等と、弱音を吐いちゃいられないな
さて、米子と云えば、数年前に死んだ我が弟子、尾上辰巳の故郷である
祖父や父の弟子と云う人達ではなく、純然たる僕の弟子と云う意味では、歌舞伎に於いては一番最初の弟子であった
例え、どんなに気持ちは分かっても
どれ程の強い誘惑が有ろうとも
自ら死を選ぶのは断じて許されない
事だ
ろう
と、思う
ただ、如何に馬鹿な死に方をした馬鹿な弟子でも、愛する可愛い我が弟子であった事に変わり無い
奴とした芝居、立廻りを決して忘れる事では無い
だから、もし、移動日のままであったのならば、神戸に行く前に墓参りをするつもりだったのだ
しかし、台風と云う、人間には如何ともし難いアクシデント
僕は時間的に断念せざるを得なかった
仕方無い
奴の墓参りは次の機会まで取っておく事にしようか
今はただ、安らかに眠ってくれていればそれでいい
もう、糞っ垂れなこんな世の中の余計な事は考える必要は無い
ちなみに、辰巳のダイレクトの弟弟子であり、今や若い子達を纏めてくれている尾上緑は、尾上辰緑達と共にこの忙しい旅の中、時間を掻い潜って墓参りをしたそうだ
辰緑も緑も、辰巳にはまた特別な思い入れも有ったろうし
彼等には彼等の絆も有るからね
行けなかった僕の分も良く行ってくれた、と、思う
辰巳、愛されてるじゃないか
今でも
羨ましい位だ、馬鹿野郎
さて、一方で現実世界に生きている人間の方はやる事山積で大変だ
先ずは、明日の神戸文化ホールに気持ちを向けてね
この旅も後半に入って来た
今の僕を辰巳が見たら何と言うだろう
奴は相変わらず飄々としているのかな
ホテルに着いたらアルコールで身体を清めようか
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何と無礼な
他人の気持ち等考え無しか
だが、何でも商売にする人だし
言っても無駄か
元来がそう云う人
虫を殺して何も言うまい
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嗚呼、何と云う事だ
明日は岡山県高梁市の高梁総合文化会館と云う所で昼夜の公演を行う筈だったのだけれども
つい今さっき、中止が決定した
理由は皆さん、何となくは分かって頂けるだろうが
御推察の通り、この台風18号の所為である
明日、高梁市で待って下さっていた皆さん、大変申し訳無い
僕如きが言うのはおこがましいが、座頭の中村梅玉の兄さんを始めとして、御襲名の中村芝翫の兄さん、橋之助さん、福之助さん、梅花さん
また、一座の先輩後輩、スタッフ一同まで、明日の公演が出来なくなった事を残念に思っているに違いない筈
勿論、僕もだ
しかし、何と言っても天候の事、我々、人間にはどうにも刃向かえぬ事
御容赦の程を
僕如きの日記からでは何の役にも立たないが、重々御詫びを申し上げる
明日、打てなかった公演は明後日の9月19日に振り替えになるそう
日時が変更になり、来て下さる方にはこれもまた、大変な御迷惑をお掛けするかと思う
我々も懸命に舞台を勤めるので、何卒、温かく応援して下さり楽しんで頂きたく思う
先ずは御報告と御詫びまで
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42歳も過ぎた今でも、役者仲間(歌舞伎以外でも)や舞踊家仲間、ファンの皆さん
そして、何より、家族や友達から良く「未だに尖っている」やら「幾つになっても角が取れない」、「棘が有る」とか「誰彼にでも噛み付くな」、「見えない何と闘っているのか」なんて言われる事は正直、多く有る
自覚している訳では無いので良くは分からないのだが
確かにその見えない何やらと常々、闘っている意識は有る
それと闘っている緊張感がいつでも無いと生きている気がしていないと感じてしまうのだ
そして、ずっと二人で生活していた幼い頃から母にも散々窘められて来たけれど、無理に角も棘も自ら削って丸くしようとは更々思った事は無い
何故なら、角と棘を削って丸くしてしまったら、その見えない何ぞと闘うに当たり、武器が無くなり無手で挑まなくてはならなくなってしまうからね
角も棘も全てが僕を形作っている要素
母からしてみたら厄介な息子で済まなかろうが、最近ではもう角と棘を取らせようとするのは諦めたみたいだ
自分を呼吸困難窒息寸前まで追い込み、隅の隅まで追い詰めていないと生きていてはいけない気が常日頃からしている
時には呼吸すらしてはいけない
許されない
許して貰えない気がする事さえ有る
果たして一体、誰に
そして一体、いつからだったろうか
推考してみよう
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本日の公演は先程、全て終了
只今、松山から徳島へバスに揺られて約三時間掛けての移動中
滅茶苦茶、退屈
なので、退屈凌ぎに日記を書く
書く、と云うか、打つ
で、今日は珍しくちょっと宣伝とかをさせて貰おうかな
来月、僕は歌舞伎の公演には出演しない
うん、何故なんだろうかね
うん、それはもういいや
でも、代わりにもう歌舞伎座が告知とかして、皆さん知っているのかな
去年も一度やった、歌舞伎座ギャラリーでやるトークショー的な奴を再び開催させて貰える事になったのだ
しかも、十月六日と十四日の二日間もである
幾ら、前回は結構お客さんが来てくれたからと云って、今回も来てくれるのか非常に心配だ
特に二回と云う事だから趣を変えて、一晩目は僕の一人語りで、尚且つ僕も司会の戸部和久さんも、そしてお客さん達にもアルコール有りでのトーク
そして、二晩目には長唄の杵屋勝輔さんと芳村辰三郎さんをゲストに迎えての対談形式と
二日間、全く違うスタイルでやってみようと企画している
蓋を開けて当日になってみたら全く人が居なかった、なんて事になったら目も当てられないので、是非来てくれれば本当に嬉しい
また、それ以外にも十月十一日には国立劇場小劇場にて「初代尾上辰之助没後30年によせて」と云う十一月の国立劇場大劇場での歌舞伎公演のプレイヴェント
また、十一月七日と十四日の国立劇場大劇場歌舞伎公演終演後にはアフタートークと、素顔で人前で話す機会が少ない僕にしては「どうしたのか」と思う程に、公式の場が目白押しだ
失言に気を付けねば
重ねて頼み上げるが、オーディエンスが少ないのは流石に寂しくて心が折れるので、暇潰しがてら気軽に遊びに来て頂けたら有難い
僕は断じてタレントではないので、芝居以外で表舞台に、特に素顔で出るのは相性が合わない気がしていて、極力お断りをさせて頂いている僕だけれど、これを機にトークショーとかはもう少しリクエストして下さる人が居るのであれば増やしてみてもいいのだろうか
考え所なのかな
様子を見てみるべきなのかな
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582
今、広島から徳山へ、新幹線で移動中
しかし、何だろう
気分が悪い
何処かから僕のメールアドレスが流出したらしくて、昨日の夜から迷惑メールが200件以上
対策は打ったんだけど、まだ続いている
流石に癇に障って来るよ
携帯電話を持って以来、今まで一度もアドレスを変えた事無かったのが自慢だったんだけど、流石に今回は変えなきゃ駄目かな
畜生
何て事った
色々、苛々するな
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581
本当に恐ろしい
世界の何処に隠れたとしても、その際限無く貪欲な目から逃れ切れる気がしない
あの目敏い嗅覚と腮からの逃げ場所なんて何処にも見付かりっこ無い
息を殺して見付からない事を、喰い散らかされない願う以外に無い
一度、気が付き、思い付き、その全てを手に入れようとする思慮深く遠慮の無い支配欲
一生掛かっても勝てない
でも、僕の人生はそれはそれで構わないと思っている
両手で掬い取れるだけの物を大切にして生きて行く
あれもこれもは欲しくはない
そんな人生要らない
そんな煩悩と欲と野心に人生を狂わされたくはない
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580
本日の仕事既に終了
周南から広島への帰り道
幾ら何でも早過ぎな気もしないでもないのだが
何にしても、突発性難聴で休演されていた中村福之助さんが今日から復帰された
何の問題も無く舞台を勤めている姿を見て共演している身としても末頼もしい
先ずは一安心
では、話を変えて
近頃、世間でも色々とニュースでちょっとした話題になっていたみたいだよね
だから、少し乗っ掛ってみる
でも、別に否定も肯定もしない
だって、何も知らないから
好きとか嫌いとか云う話じゃなくて、YouTuberとかニコ生主とかって商売(って言っていいのかな)の人達の事、良く分からない
本当に好きとか嫌いとかの話じゃないんだ
一体、どう云う方法でお金を稼いでいるのかな
僕には本当に不思議でならない
何故ならYouTubeとかニコニコ動画とかを殆んど見た事が無いから
興味も無いしね
見る方法もあまり良く分からない
Huluとかも同じ様な類いなのかな
インターネット周り同様、そこ等辺りあまり知識が無い
こう見えて、どう点ければいいのかすら聞かなければあまり良く分からない、実はガラケーとKindle様だけ有れば十分に満足出来ちゃうアナログ寄り人間
でも、今、子供達には人気の職業なんでしょ
いつだか、娘や息子と食事をしていた時も“さん”付けでYouTuberの人を呼んでいたよ
僕は誰だか知らなかったけどさ
僕には正直、YouTubeもニコニコ動画も、あまり無くていいや
必要としない
Blu-rayとDVDとAmazonPrimeが使えるKindle様が有れば、映像を楽しむのには全く困らないな
さて、と
一杯飲んで時間を潰したら、今晩は昔馴染みの姉さんに教えて貰った寿司屋に懐かしみにつまみに行くとするかな
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今月は体力的に決して苦しい公演ではなく移動時間にも割合と余裕が有る事に気が付いた
昨日も辛かったのは終演後、約二時間半の鹿児島から宮崎までのバス移動だけだったからね
いや、これは実際、ずっと車内で同じ体勢が続くから腰がなかなか痛くて大丈ばないのだが
ただ、時間が有るのは事実なので、日記を無理をしない程度で、いつもよりも出来る限りちょっと多めに書いてみようかと思う
とは言っても、決して筆まめではない僕の事だから、長文ではなく、短めの走り書きをたまにする位の事だろうから
あまり、面白い事を書けないのはいつもの如くであるから期待はしないで欲しい
いや、期待された事は生まれてこの方無かった
無用の心配であったな
さて、話は一昨日に戻る
一昨日は鹿児島で郷土料理の吾愛人と云うお店屋さんで「孤独のグルメ」宜しく一人飯
飛び込みの一人飯は嫌いではない
寧ろ好んでする方
井之頭五郎さんと違うのは酒を頂く所かな
秋太郎の刺身や薩摩揚げ、薩摩味噌おでん、地鶏の溶岩焼きやらをつまみつつ、富乃宝山で深酒
楽しく美味い酒と飯で大満足
昨日は弟子の辰緑、緑、松悟、松三と宮崎の郷土料理屋さん、杉の子で白霧島、百年の孤独を飲み、伊勢海老の活造りや鮑バター焼き、地鶏炭火焼等を堪能した上、女将さんに大変にサーヴィスをして頂いて感謝感激
女将さん、本当にどうも有難う
こう云う一期一会もまた、旅の醍醐味だよな
次に鹿児島、宮崎に来られるのはまたいつだろうかね
今から楽しみだ
そして、今晩も宮崎泊まり
「何処で何を食べようか」と思いを巡らせていたら、市川高麗蔵の兄さんが誘ってくれたので、兄さんの終演を待ってデートして来る
明日は癌で死んだ片想いの姉さんの故郷、広島に移動
晩飯と酒の場所はもう決めている
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