尾上松緑、藤間勘右衞門の日記

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2017.05.25 Thursday

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今週頭、今月、歌舞伎座に出演中の坂東彦三郎さんの息子さんの坂東亀三郎さん、尾上菊五郎兄さんのお孫さんで寺嶋しのぶさんの息子さんである寺嶋眞秀さん、それから、尾上菊之助さんの息子さんの寺嶋和史さん、良く楽屋に遊びに来ている市川海老蔵さんの息子さんの堀越勸玄さん
四人めいめいに、僕が持っていた刀(勿論、模造刀である)を一振りずつプレゼントした
亀三郎さんには今月、お父さんが使っている様な白鞘の刀
眞秀さんには朱塗り長尺の二郎刀
和史さんには黒銀雲の鞘の脇差し
勸玄さんには黒塗りの居合い用の大刀
「我が藤間家代々の家宝を譲る」と、大袈裟な嘘を吐いて渡したら、親達の方がギョッとしていたが
勿論、それは冗談
僕のポケットマネーで集めた自分のコレクションの中からのチョイスなだけである
でも、四人が四人共、喜んでくれていたみたいなので何より
我が息子もそうだったし、男の子は皆、刀が好きだね
ただ、振り回すのは構わないけれど、自分が怪我したり、他人に怪我させたりしない様に気を付けては欲しい
毛利元就の“三本の矢”には一振り多いが「少年達が皆で力を合わせて今後の歌舞伎を盛り上げてくれれば」と云う、ロートルの老婆心もちょっとだけ篭っていたりする事は内緒
まるで形見分け
さて、話を変えよう
今月、その歌舞伎座の夜の部「伽羅先代萩」に於いては荒獅子男之助輝秀を勤めている
相手の仁木弾正直則は勸玄さんのお父さんの海老蔵さん
この役を勤めるのは三度目
仁木は一度目は片岡仁左衛門の兄さん、二度目は中村吉右衛門の叔父さんで演らせて頂いた
此処で少し、昔の事を話す
平成十一年の十一月、初めて僕が「倭仮名在原系図」の奴蘭平実は伴義雄を勤めた折(ちなみにこの時の蘭平一子繁蔵は今月、一緒の楽屋に入っている坂東巳之助さんであった)にも「伽羅先代萩」が出ていた
その時は十七世市村羽左衛門の小父さんが男之助をなさっていた
多分、羽左衛門の小父さん最後の男之助だ
僕は興行中の一ヶ月、黒子を着て小父さんに付いていた
大概、この男之助と云う役の化粧は筋隈と云う隈を取るのだが、小父さんは一本隈を取っていた
不思議に思い「何故か」と尋ねてみると、「九代目市川團十郎さんが男之助では一本隈を取った事があるから、今回はそれに倣っているのだ」との事だった
色々と男之助についても、蘭平についても話して下さったな
とは云え、僕自身は個人的には男之助は筋隈の方が見慣れているし、力強く派手ると今でも思う
お客さんも大体の方のイメージはそうであろう
だから、今までも筋隈で通して来たし、今後も十中八九はそうするだろう
でも、今月は羽左衛門の小父さんの十七回忌追善も謳った興行である
使い方は違うが、我等の仕事場には“三日御定法”と云う言葉も有り
また、市村橘太郎さん、山崎咲十郎さんとの男の約束も有り
今日から明後日の千穐楽までの三日間だけ、坂東の小父さんの化粧を真似して一本隈を取って演じる事にする
仁木の海老蔵さんにも話をして許可を貰ったし
恐らくは僕が生涯で三回だけ、三日間だけの一本隈の男之助
これは沢山怒られながらもそれ以上に可愛がってくれ、晩年、特に世話になった坂東の小父さんへの敬意と些少で非力ながらも餞の意味も込めて
次回、演る時にはまたきっと筋隈に戻すだろう
さて、どの位のお客さんが化粧を変えた事に気付くだろう
また、明日、明後日は「いつもとどう違うか観比べてやろう」なんて方がもし一人でも居て下さると幸い
そして常磐津・清元・長唄「四変化〜弥生の花浅草祭〜」
これも残る所、三日のみ
実に名残惜しい
最後まで楽しもう
他の誰でもない僕がね
勿論、油断無く、努めて平常心で

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